株式会社オー・エル・エム・デジタル

  • 業種

    映像制作

  • 課題・要望

    クラウド上のGPU(H100クラス)の枯渇 自社サーバールームの制約

  • 製品・サービス

    デル・テクノロジーズ データセンター製品&ワークステーション、データセンター

左から、株式会社オー・エル・エム・デジタル 研究開発部門 シニアシステムエンジニア 石井 裕気氏、株式会社オー・エル・エム・デジタル 取締役/R&Dスーパーバイザー 四倉 達夫氏、株式会社オー・エル・エム・デジタル 研究開発部門 シニアシステムエンジニア 深谷 祐太氏、株式会社オー・エル・エム・デジタル 研究開発部門 システムエンジニア 中山 聖夜氏、株式会社オー・エル・エム・デジタル 研究開発部門 システムエンジニア 馬場 洸輔氏
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  • データセンターの移設

ANIMINSプロジェクトが始動 生成AIで変わる アニメ制作の未来とは

独自の研究開発力でアニメ業界をけん引

株式会社オー・エル・エム・デジタル
取締役/R&Dスーパーバイザー
四倉 達夫 氏
OLMグループの一員として、数多くのアニメ作品やフルCG作品、VFX映像などを手掛けるオー・エル・エム・デジタル(以下、OLMデジタル)。近年は実写映画やTVシリーズなどの制作にも進出し、活動のフィールドを年々広げている。同社の特徴はアニメ業界では数少ないR&D(研究・開発)部門を持っていること。その役割について、同社取締役/R&Dスーパーバイザーの四倉 達夫氏は次のように説明する。

「R&D部門の大きなミッションは、デジタル映像表現の新しい可能性の具現化と、映像制作現場における高効率化の実現です。現在は作品数の増加につれてクリエイター人材不足が深刻化しています。そこで新たな技術開発によって作業工程の効率化を図り、よりクリエイティブな作業に専念できる環境を支援することを目指しています」

その一環として、近年はAIを含めた最先端技術の研究開発にも注力。2018年から産学連携でアニメの仕上げ支援技術の共同研究を進めている。仕上げとは、完成した動画に色を着彩する工程のこと。この基盤技術を実用化させ、クリエイターを補助することが目的だ。現在は80%程度まで正確な着彩を実現しているプロトタイプシステムが、マレーシアにあるOLM Asia SDN BHDで稼働しているという。

生成AIを制作現場に生かすANIMINSプロジェクトが始動

こうした中、同社の研究は新たな局面を迎えることになった。経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実施する国内の生成AIの開発力強化を目的としたプロジェクト「GENIAC(ジーニアック)」の1つに採択され、「ANIMINS(アニミンズ)」として加速することになったからだ。

「ANIMINSは2024年12月、当社を代表事業者として、9つの大学と2社のスタートアップ企業、OLMグループ3社が共同でスタートしました。産官学連携で、生成AIがアニメ制作にどう利活用できるのか、制作ワークフローに馴染むのかを徹底的に評価・検証することを目的としています」と四倉氏は説明する。
ANIMINSプロジェクトのワークフロー図

アニメ制作現場で生成AIを導入するために大切なことは、制作工程に馴染ませること。
生成AIがアニメ制作のどこにどのように利活用できるのか、制作ワークフローに馴染むのかを 徹底的に評価し検証するのがANIMINSプロジェクトの目的となる。

ANIMINSはアニメ業界の可能性を切り拓くプロジェクトとして多くの注目を集めている。というのも、現在アニメの制作現場は様々な課題を抱えているからだ。労働集約型で業務の属人化が進み、クリエイターの人材不足が慢性化していることはその1つ。また、アニメ業界を支えるソフトウエア企業がほかの業界と比べて少なく、専門ツールやスキルの高いエンジニアの育成も少ないためデジタル化が加速していない。さらに、生成AI活用を進めるにあたっても、「自動化の推進で職を奪われるのではないか」という恐怖感が導入を阻む1つの壁になっているという。

「調査していく中で分かってきたことですが、生成AIはアニメ業界に限らず、そもそも本来的な仕事を奪うものではなく、人をサポートするツールであること。かつてスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表した当時、『そんなものが必要なのか?』と世界中の人々が感じていたかもしれません。しかし今では誰もが皆、当たり前のようにスマートフォンを使いこなしている。生成AIも同様で、今では多くの人が日常的に使っています。ならば生成AIを否定するのではなく、クリエイターがよりクリエイティブな作業ができるように使いこなし、生成AI技術をなじませたアニメ制作のワークフローを構築することが重要ではないかと考えているのです」(四倉氏)

ANIMINSの事業は2026年2月末までの15カ月間。具体的には、アニメ技術の学術論文や学会発表に向けた「基礎研究」、アニメスタジオへの技術展開を図る「プロダクションユース」、アニメ業界や隣接領域(ゲームなど)との連携強化に向けた「アニメ×AI調査」という3つの柱がある。OLMデジタルは、この3つの柱を支える基盤システムの構築においても中核的な役割を果たしている。

ANIMINSプロジェクトのワークフロー図

ANIMINSの事業は、アニメ技術の学術論文や学会発表に向けた「基礎研究」、アニメスタジオへの技術展開を図る「プロダクションユース」、アニメ業界や隣接領域(ゲームなど)との連携強化に向けた「アニメ×AI調査」という3つの柱で構成されている。

GPUサーバーにDell PowerEdgeを選定

株式会社オー・エル・エム・デジタル
研究開発部門
シニアシステムエンジニア
深谷 祐太 氏
株式会社オー・エル・エム・デジタル
研究開発部門
シニアシステムエンジニア
石井 裕気 氏
株式会社オー・エル・エム・デジタル
研究開発部門
システムエンジニア
馬場 洸輔 氏
株式会社オー・エル・エム・デジタル
研究開発部門
システムエンジニア
中山 聖夜 氏
基盤システムを構築する上で、カギとなったのはGPUサーバーの選定だった。同社の深谷 祐太氏は、「短期間のプロジェクトなので、当初はパブリッククラウドのサービスを検討しました。しかしANIMINSの開始が決定した当時は、NVIDIA H100 GPUレベルのリソースがクラウド上でほぼ枯渇していたため、自社データのハンドリングにも不安の少ないオンプレミスでの構築に切り替えることにしました」と振り返る。

早速、以前から多くの機器やソリューションを導入した実績を持つデル・テクノロジーズに提案を依頼。H100を4基搭載したDell PowerEdgeサーバーとDell Precision 7960 Tower ワークステーションを採用することにした。ただし、自社のサーバー室は、設備面の制約もあり消費電力量や発熱量の多いGPUサーバーを運用することは難しい。

「そこでデル・テクノロジーズに相談したところブロードバンドタワーのデータセンターを提案してくれました。外部のデータセンターを利用するのは初めてでしたが、ブロードバンドタワーのデータセンターは渋谷という立地でアクセスが良く、PowerEdgeやDell Precision 7960 Tower ワークステーションのメンテナンスや万が一の障害時にも迅速に駆けつけられること、高速・低遅延のネットワーク基盤に加え、セキュリティーに安心感がある点が決め手になりました。実際、初期構築時には、高消費電力・冷却が必要なGPUサーバーを短期間・スムーズに設置してくれました」とOLMデジタルの石井 裕気氏は話す。セキュリティーと作業効率のバランスが取れており、入館や作業がスムーズに行えるため、運用者にとって非常に使いやすいデータセンターだと感じたという。

導入されたのは、Dell PowerEdge XEサーバーが1台、Dell Precision 7960 Tower ワークステーションが9台、Dell PowerSwitch N3248TE-ONスイッチが2台というシステム構成である。この環境を9大学と2社のスタートアップ、OLMデジタルが共有し、それぞれの研究や検証に活用する。またGENIACの支援を受ける枠組みとして、データセンターと機器の利用料すべてを月額の従量課金制とするスキームも、デル・テクノロジーズとブロードバンドタワーによって実現した。


2025年1月に稼働を開始したANIMINSの基盤システムでは、限られた期間内で効率的なリソース・コスト配分を実現するため、様々な工夫が施された。

「例えば、組織文化や研究テーマが異なる組織が共有で使うため、あえてパイプライン化や過度なルール化は行わずマシン単位で割り当てることで、OLMデジタルが管理者権限を握った上で、基本的なセキュリティーをクリアすれば各研究機関の裁量で自由にPowerEdgeのリソースを使えるようにしました。またDell Precision 7960 Tower ワークステーションは9台のマシンにSSDを4台ずつ搭載し、SSD単位で組織の割り当てを決めて活用できるようにしました」と深谷氏は説明する。

「継続的なリソースの監視と最適化を行うため、クラウドベースの監視・管理プラットフォームを活用し、メトリクスやログなどのシステムデータをリアルタイムに収集・分析・可視化して、最適な運用に生かしています」と話すのは、同社 システムエンジニアの馬場 洸輔氏だ。

同じくシステムエンジニアの中山 聖夜氏も、「プロジェクトに参加されている皆さんが簡単にコミュニケーションできるツールやサービスを入れ、知見やノウハウを共有しながら研究・開発を加速できるようにしています」と付け加える。

デル・テクノロジーズのリモート管理ツール「iDRAC(アイドラック)」を活用した運用面の効率化も大きい。「今回は社内とデータセンターでシステム環境が分離してはいますが、iDRACを使ったリモート監視で従来と同じように一体的な運用が行えます。各種ハードウエア情報の確認や電源のON/OFF、OSのインストール、ログの取得などを遠隔で行えるので助かっています」と石井氏は言う。

3つの領域でAIを活用した制作支援を検討

ANIMINSでは、AIを活用した制作支援を3つの領域で検討している。「原画・動画・仕上げの作業支援」「キャラクター描画支援」「類似画像検索支援」だ。

1つ目の「原画・動画・仕上げの作業支援」では、既に仕上げ工程のAI自動彩色ツールが先行開発されているが、ANIMINSではその精度をさらに高める一方で、原画を滑らかに動くアニメーション(動画)に仕上げる工程でも、原画をトレースしながら必要な動きを補足していくためのAIツール開発に取り組んでいるという。

「それぞれの開発内容は、賛同いただいている20社以上のアニメスタジオにも一部試してもらい、フィードバックをもらいながら検証を進めています」と四倉氏は言う。

2つ目の「キャラクター描画支援」は、ラフ段階のキャラクター作画を、設定資料の表情やデザインに近づけるようアシストしたり、修正箇所を提示したりする目的で行われる。30分のアニメをつくるためには何千枚もの連続した絵(原画)が必要となる。この原画作成には何十人ものクリエイターが携わるが、それぞれ得意な部分や個性があり、担当者によってキャラクターの顔が変わってしまうことがある。そうしたズレをなくすためのチェックや品質管理を行っている作画監督の負担を軽減し、作品全体のクオリティ向上をサポートできるAI研究が進められている。

3つ目の「類似画像検索支援」は、長期的シリーズになったアニメ制作などで、過去の作品との整合性を保つため、散在する素材や参考資料をカットごとに検索できるAIシステムだ。

「これはキャラクター描画支援の関連技術となりますが、例えば"過去に出てきた主人公の部屋はどんな感じだったか""あのキャラクターの走り方の特徴はどうだったか"といったような疑問に対して、膨大な素材や資料の中から瞬時にそれを検索し、制作やマネジメントに生かすシステムです。スタートアップ企業として参加いただいているAI Mageさんが早くから研究開発しているツールですが、こちらもANIMINSでは賛同企業のアニメスタジオさんに自社データでテストしてもらい、制作現場で便利に使っていただけるよう改善を進めています」(四倉氏)

類似画像検索支援では、過去数十年もの作品データに加え、毎週のように生み出される新たな作品群に対しても、画像やデータに意味を付与し学習させるためのデータラベリングを行わなくてはならない。今回導入されたPowerEdge XEサーバーは、そのパフォーマンスを一気に加速させ、研究開発のスピードアップに大きく貢献しているという。

「ANIMINSプロジェクトそのものは生成AIの調査事業ですが、日本のアニメ業界に山積している様々な課題を解決する大きな可能性を秘めています。そのためにも生成AIを『アニメ制作現場を活性化させる1つの起爆剤』と位置付け、今後もよりクリエイティブな作品を生み出すために、産学官連携のコラボレーションと研究開発を継続させていきたいと考えています」と四倉氏は最後に語った。
出典: 日経クロステック記事
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/25/delltechnologies1024/
企業名
株式会社オー・エル・エム・デジタル
https://www.olm.co.jp/
設立
1997年4月
所在地
東京都世田谷区若林1-18-10 京阪世田谷ビル 9F
事業内容
・デジタルアニメーションコンテンツの企画・制作  ・3DCG・VFX制作全般  ・レンダーファーム・制作インフラを活用した大量制作  ・R&D(研究開発)による独自ツール・パイプライン開発  ・OLMグループ内・外部との共同研究・技術協業