山極 壽一

京都大学

総長

皆さん、こんばんは。京都大学総長の山極でございます。今日、私がなぜここに呼ばれているかといいますと、藤原さんのちょっと先輩の京都大学理学部の出身なわけでございます。ブロードバンドタワー20周年、本当におめでとうございます。ノーベル賞受賞者の天野さんを前にして大変恐縮ですが、京都大学が誇るのは、理学部に物理学の受賞者が大変多く出ていることと、そして、ベンチャーをたてた方々が結構いるということでございます。その中で藤原さんは大スターです。今の学生たちの憧れの的です。藤原さんがいるおかげで、10代の内にこもりがちの理学部の体質が変わっていく、そんな予感がしています。しかも、藤原さんはIT起業家として有名ですが、実は宇宙少年です。宇宙物理学を京都大学理学部で修められて、その学友たちがたくさん理学部で活躍しています。そして実は昨年、岡山県の浅口市、これは日本で一番天気の多い町なんですが、そこに京都大学の天文台が完成しました。これはもうほんとに長いことかかって、名古屋大学と共同で反射鏡望遠鏡の鏡を磨き、それを使って日本最大の反射鏡望遠鏡をつくって、そこに設置するまでこぎつけたのです。この事業は、最初から藤原さんにお世話になりました。そしてその名前は、昨日、羽生結弦君がフィギュアスケートで優勝しましたね。平昌オリンピックでやった舞の名前ですよ。SEIMEI。「せいめい望遠鏡」という名前を付けさせていただきました。そこには藤原さんの名前がちゃんと刻まれています。安倍晴明と言えば、ちょっと怪しいですけど、藤原さんもちょっと怪しい。その御利益にあずかってせいめいと名付けました。これによっていっぱいいろんな発見が出てくると思います。今、京大理学部は宇宙少年たちが集まる場所になっていて、数年前に学部生が『Nature』に論文を出しました、太陽フレアの観測で。もうほんとにいろんな注目を浴びています。こういうことが大学の真のミッションだろうと私は思っています。しかも、いまだに藤原さんは昔の夢を諦めずに、そういうことを日本の青少年たちに与えていただいている。大学の経営者としては大変ありがたいことだと思っています。私は宇宙少年ではありません。だいたい理学部に来るあほな青年は、宇宙少年か昆虫少年なんです。私は昆虫少年でもありません。サルやってますから、サル知恵を学んできたさらにあほな学者です。ただ私、昨日、大阪の蔦屋というところで最近本を出した菅付さんというジャーナリストと対談をしました。彼は最近『動物と機械から離れて』って本を出したんです。彼は数年かけて、シリコンバレー、深?、スコルコヴォ、いわゆるIT企業の集積地を回ってカーツワイルとか、そういうITの有名人たちにインタビューして回って本を書いたんです。なぜ動物というタイトルを付けたかっていうと、ひょっとしたらITの時代に人間は動物に戻るかもしれないって話なんです。これ、逆説的でしょう。私は、それで呼ばれたんです。私はゴリラの研究者ですから、山極さん、動物に戻るってどういうことでしょう。それはね、ちゃんと答えは分かってるんですよって私は言いました。人間の脳は1万2000年前に農耕牧畜が始まって以来、10%縮んだっていう話があります。つまり、人間の知能は人工知能によって外出しにされちゃったので、人間の脳は容量をどんどん小さくしてる。これがいいことなのか悪いことなのか。

じゃあ、人間の脳っていったいなんで大きくなったのかっていったら、知能の部分ではありません、意識の部分です。社会的意識の部分で、社会脳として人間は脳を使っていてる。だって40万年前に今の人間の大きさに達してるわけですから、言葉を使った知能の部分は脳を大きくすることには役立たなかった。じゃあ、これから人間の脳が小さくなるということは、その意識の部分をあまり使わずに人間は生きていけるようになるということです。それはいいことなのか悪いことなのか、今、考えなくちゃいけない。だから、サル知恵が再び必要になってきた。ということで、私はちょっとこれからは、私の出番だなと。このIT全盛時代、この菅付さんが私にサジェスチョンしたのは、あなたは大学の経営者として絶対にシリコンバレーに倣ってはいけません。今、日本の大学はスタンフォードをベンチマークにして変わろうとしていますが、スタンフォードを狙ってはいけないということです。じゃあ、どうしたらいいのか。私の頭の中には今いろんなアイデアがあるんですが、それは今は言わないでおきましょう。でも、十分、藤原さんを利用することだと思っておりまして、お金ではなく知恵です。実は藤原さんは、日本の産業界で会長、社長になった京都大学の卒業生が集っている、鼎会というところで活躍をしていただいております。鼎会の中で、幾つか京都大学の事業に出資をしていただき、その審査員として登場していただいています。その一つ、「学際研究リサーチコンテスト」が毎年ありまして、これは複数の学問領域でチームを組み、おもろいことを考えてプレゼンをして、それを産業界、アカデミアから審査をして賞を与えるという試みなんですが、いつも藤原さんに来ていただいて厳しい批評をしていただいてます。そういうふうに、企業の方々に大学の中に入ってきていただいて、若い人たちのおもろい発想というのをいかにこれからの産業や社会に結び付けるかっていうのが必要だと思います。目利き、これが今、大学には必要です。そういうことを従来からやっていただいています。藤原さんのような目を持って、しかも夢を忘れずに、青少年たちにそれを与えているという、こういう起業家はいいなと思っておりまして、ブロードバンドタワーの成功だけではなくて、これからの藤原さんの生涯に大きな期待を寄せさせていただきまして、私のお祝いのあいさつとさせていただきます。どうもありがとうございました。

一覧に戻る